有名な本。読みは「いんえいらいさん」です。前から気になってて読みたいなと思ってました。青空文庫で無料で読めます。
陰影を徹底的に排除しようとする西洋文化とは対象的に、東洋、日本の文化や芸術は、そもそも陰翳を認め、それを利用することで、その陰翳の中で映えるものを作り上げてきたという話。そして西洋文化を取り入れることで、その良さが損なわれてしまい、「損」をしているという話でした。
さすがにあれほど趣のあるトイレは体験したことはないけど、その他の部分に関しては多かれ少なかれ身に覚えがあって、共感できる部分が多かったです。三十三間堂とか古い寺とかで感じる、あのえも言われぬ感じの正体がわかった気がしました。
他にも、今の時代だったら物議を醸しそうな表現があって攻めてるな〜と思ったり、螺鈿細工の漆器がちょっと欲しくなったり、柿の葉寿司が食べたくなったりと、色々感じるところが多かったです。
それから、話題はもちろん面白かったんだけど、それよりも、こういうのを言語化して伝えることができるがすごいなぁって思いました。あと、やっぱり、言葉とか表現とかに味がありますよねぇ。いいなと思ったのをいくつか覚え書きまでに残しておきます。
畳の上に幾すじもの小川が流れ、池水が湛えられている如く、一つの灯影を此処彼処に捉えて、細く、かそけく、ちら/\と伝えながら、夜そのものに蒔絵をしたような綾を織り出す。
ちょうど私がその部屋へ這入って行った時、眉を落して鉄漿を附けている年増の仲居が、大きな衝立の前に燭台を据えて畏まっていたが、畳二畳ばかりの明るい世界を限っているその衝立の後方には、天井から落ちかゝりそうな、高い、濃い、たゞ一と色の闇が垂れていて、覚束ない蝋燭の灯がその厚みを穿つことが出来ずに、黒い壁に行き当ったように撥ね返されているのであった。